地球表面で働く見かけの力
三次元的な例として、地球表面で働く見かけの力を求めてみましょう。まず、地球表
面での座標系X1Y1Z1と 地球の中心を原点とする座標系X2Y2Z2での関係は以
下のようになります。 ここで、θは緯度を表します。 表面の座標系の原点は実際に
は地表にある訳ですが、この関係式では地球の中心と一致させています。 このよう
にしても問題への影響はありません(Z1に地球半径を足すだけで、Z1方向の速度
や加速度は変わらない。図1参照)。ちなみに、X1軸とX2軸は完全に一致させてい
ます(以降、物体Sに関する座標値の関係で表示する)。
X2S=X1S
Y2S=Y1S SINθ+Z1S COSθ
Z2S=−Y1S COSθ+Z1S SINθ
< ∠Z1OZ2=π/2−θ、S→地球表面上にある物体 >
(図1、Functionviewで作成)
地球自体は自転しているので、 座標系X2Y2Z2に対して角速度ωで反時計方向
に回転している座標系X3Y3Z3をさらに考えます(図2参照)。ただし、t=0で、す
べての軸の方向は完全に一致しそして原点も一致しているものとします。すると、
X3S=X2S COSωt+Y2S SINωt
Y3S=−X2S SINωt+Y2S COSωt
Z3S=Z2S
< ∠X2O X3=ωt >
(図2、Functionviewで作成)
よって、座標系X1Y1Z1と座標系X3Y3Z3での関係は、
X3S=X1S COSωt+Y1S SINθSINωt+Z1S COSθSINωt
Y3S=−X1S SINωt+Y1S SINθCOSωt+Z1S COSθCOSωt
Z3S=−Y1S COSθ+Z1S SINθ
となります。これらを t に関して微分すると、
(X方向)→dX3S/dt=(dX1S/dt)・COSωt+(dY1S/dt)・SINθSINωt
+(dZ1S/dt)・COSθSINωt−X1S・ωSINωt
+Y1S・ωSINθCOSωt+Z1S・ωCOSθCOSωt
(Y方向)→dY3S/dt=−(dX1S/dt)・SINωt+(dY1S/dt)・SINθCOSωt
+(dZ1S/dt)・COSθCOSωt−X1S・ωCOSωt
−Y1S・ωSINθSINωt−Z1S・ωCOSθSINωt
(Z方向)→dZ3S/dt=−(dY1S/dt)・COSθ+(dZ1S/dt)・SINθ
もう一度、t に関して微分すると、
(X方向)→d2X3S/dt2={ (d2X1S/dt2)・COSωt
+(d2Y1S/dt2)・SINθSINωt+(d2Z1S/dt2)・COSθSINωt }
+{−(dX1S/dt)・2ωSINωt+(dY1S/dt)・2ωSINθCOSωt
+(dZ1S/dt)・2ωCOSθCOSωt }+{−X1S・ω2 COSωt
−Y1S・ω2 SINθSINωt−Z1S・ω2 COSθSINωt }
(Y方向)→d2Y3S/dt2={−(d2X1S/dt2)・SINωt
+(d2Y1S/dt2)・SINθCOSωt+(d2Z1S/dt2)・COSθCOSωt }
+{−(dX1S/dt)・2ωCOSωt−(dY1S/dt)・2ωSINθSINωt
−(dZ1S/dt)・2ωCOSθSINωt }+{ X1S・ω2 SINωt
−Y1S・ω2 SINθCOSωt−Z1S・ω2 COSθCOSωt }
(Z方向)→d2Z3S/dt2=−(d2Y1S/dt2)・COSθ
+(d2Z1S/dt2)・SINθ
これで、回転する座標系 X3Y3Z3での加速度を回転していない座標系 X1Y1Z1で
の位置や速度そして加速度で表すことができました。 最初の例として、赤道上で静
止している物体に働く力を求めてみます。 この例では、θが0度となります。また、t
=0で、Z1軸の+方向とY3軸の+方向が一致していると仮定します。 したがって、
赤道上で静止している物体の座標系 X1Y1Z1での初期条件を以下のように取りま
す。
X1S=Y1S=0、Z1S=R(Rは地球の半径)
dX1S/dt=−Rω(ωは自転の角速度)、dY1S/dt=dZ1S/dt=0
d2X1S/dt2=d2Y1S/dt2=d2Z1S/dt2=0
これに対応する座標系X3Y3Z3での加速度(t=0)は、
(X方向)→ d2X 3S/dt2=0
(Y方向)→ d2Y 3S/dt2=2 Rω2−Rω2=Rω2
(Z方向)→ d2Z 3S/dt2=0
となります。つまり、物体に働く地球の重力MGとは反対方向に、遠心力MRω2が
働きます。 ここで、 Mは物体の質量で、Gは重力加速度です。 では、実際に数値を
入れて、重力加速度(9.8 m/s2)と遠心力による加速度を比較してみましょう。遠
心力は次のようにも書けます。
MRω2=MV2/R → Rω2=V2/R(遠心力による加速度)
V(m/s)は地球が一日で一回転するので、
V=(3.14)X(1.27X107)/(24X60X60) (m/s)
=462 (m/s)
この数値を使って加速度を計算すると、Rω2=0.03 (m/s2)となります。重力加
速度に比べてかなり小さいことが判ります。
次に、 日本の緯度程度にある物体に働く見かけの力を検討してみます。 t=0での
見かけの力を書き出すと、
(X方向)→ M・(d2X3S/dt2)=M・(dY1S/dt)・2ωSINθ
+M・(dZ1S/dt)・2ωCOSθ−M・X1S・ω2
(Y方向)→ M・(d2Y3S/dt2)=−M・(dX1S/dt)・2ω
−M・Y1S・ω2 SINθ−M・Z1S・ω2 COSθ
Z方向には見かけの力は働きませんので注意してください。 地表面で 単純な振り
子を南北方向に振らしているときに働く見かけの力を計算してみます。 振り子の重
りが真下に来たとき(t=0)の座標値を以下のように取ります。
X1S=Y1S=0、Z1S=R(Rは地球の半径)
また、振り子全体が地球と共に自転していることを考慮すると、速度成分(t=0)は
dX1S/dt=−RωCOSθ、dY1S/dt=VMAX(北→南:符号は+)、
dZ1S/dt=0
ゆえに、見かけの力の各成分(t=0)は、
(X方向)→ M・(d2X3S/dt2)=MVMAX・2ωSINθ
(Y方向)→ M・(d2Y3S/dt2)=2MRω2 COSθ−MRω2 COSθ
=MRω2 COSθ
となります。 この結果から、重りが南から北へ向かって動いているときには、重りに
東向きの力が加わり、 逆に、北から南の場合には、西向きの力が加わることが判
ります。 これは、 振り子の振れる面が南北方向から東向きに回転することを意味
します。 Y方向の見かけの力は 南斜め上向きの遠心力で振り子の運動面には影
響を与えません。 振り子を 東西方向に振らしている場合についても考えてみます。
この場合の速度の各成分(t=0)は、
dX1S/dt=−RωCOSθ+VMAX(東→西のとき、VMAXの符号は+)、
dY1S/dt=dZ1S/dt=0
これより、見かけの力の各成分(t=0)は、
(X方向)→ M・(dX3S/dt)=0
(Y方向)→ M・(dY3S/dt)=MRω2 COSθ−2MVMAX ω
となり、振り子が西から東に向かって動いているときの方が、東から西に向かって動
いているときより、遠心力方向の力が大きいことが判ります。このため、振り子の運
動面が東西方向から南側に回転することが判ります。 以上のことをまとめると、振
り子の運動面に対する見かけの力の影響は、東→南→西→北 という 時計方向の
回転の発生であるという結論になります。フーコーの振り子の実験はこれを示すた
めの実験であった訳です(地球が自転していることの証明)。ちなみに、ωを含む項
をコリオリの力と言います。
課題(その1)
フーコーの振り子を北極や南極そして赤道上で振った場合にどうなるかを考えてく
ださい。また、オーストラリアなどの南半球にある国で振った場合はどうですか。
課題(その2)
上記で説明した 振り子の運動面の回転速度を議論してください。 回転速度は時間
的に変動しますか?数式または数値を使って説明してください。
最後に、 見かけの力が地球規模で起こっている気象現象にどのような影響を与え
ているかを考えてみましょう。特に、これらの力は台風などの発生に大きく関わって
いると言われています。台風はもともと熱帯低気圧が発達したものです。この低気
圧の中心部では、地上の空気が暖められて上昇気流が発生しています。