平面から球面への補正
空気抵抗の係数を計算する上で、 物体の表面が平面でできたものを考えてきまし
たが、これを球面に変更して係数の大きさがどのように変化するかを検討してみま
しょう。当然、係数の大きさが小さくなることが予想されます。
図1は球面のある個所に空気分子が当たったときの様子を示したものです。 空気
分子は球面で完全な弾性衝突をすると仮定しています。
<球状物体を赤道面でカット>
(図1、Functionviewで作成、球と共に動く座標系から見た図)
気体分子は、横軸と平行に飛んでくると仮定しましょう。 点Aの方向から来る分子
は球面上の点Bに衝突し、点Cの方向に進んで行きます。 分子は球面と完全な弾
性衝突をするため、 点Bでの法線方向(または、 接線方向)と作る角の大きさは、
等しくなります。 したがって、横軸と線分OBから作られる角の大きさをθとすると、
角ABCの大きさは2θとなります。
それでは、反対方向からぶつかってくる分子とペアにして、運動量の変化分を求め
てみます。 左右からやってくる分子の衝突前と衝突後の分子の速度は以下のよう
になります。右側へ進む分子の速度を+方向としました。また、球状の物体は速度
Vで右側の方向に動いているとします。
分子速度(右側から来る): −U(衝突前) (U+V) COS 2θ+V(衝突後)
運動量変化(横軸方向); mair(1+COS 2θ)(U+V)
分子速度(左側から来る): U(衝突前) −(U−V) COS 2θ+V(衝突後)
運動量変化(横軸方向): mair(1+COS 2θ)(−U+V)
以上から、ペア全体の運動量変化は、2 mair(1+COS 2θ)Vとなります。θ=
0とすると、進行方向に垂直な平面を持つ物体の例になり、θ=π/2に近付けると
、 軍事用の戦闘機や宇宙開発のためのロケットの先端のように極めてシャープな
形状を持つ物体の例となります。
上記の結果を踏まえて、実際に空気抵抗の係数を計算してみます。 下図は球状物
体を3D表示したものです(図2参照)
(図2、Functionviewで作成、球と共に動く座標系から見た図)
上図において、気体分子はYの+方向から飛んでくると仮定しています。 また、球
状物体はYの+方向に向かって進んでいるとしています。 球面上の帯状の部分 (
ピンク)にぶつかってくる分子は、球に与える力の観点からするとすべて等価になり
ます(Y軸方向の力に関して)。すなわち、
∠EAI=∠FBJ=∠GCK=∠HDL=2θ
の関係式が成り立ちます。 図1と図2との対応から、Y軸と線分OA(OB、OC、OD
のどれでもOK)で作られる角がθです。
球状物体に働く空気分子による抵抗力を計算するための数学的な準備は整った
ので、積分式を導出してその値を計算してみます。 まず、図3を見てください。 Y軸
と線分OCで作られる角の大きさθが最終的な積分変数になる訳ですが、 最初に
、線分ABの長さXを積分変数として積分式を考えます。 つまり、右側にある球と同
じ半径を持つ円内の微小な幅を持つリングを通過した空気分子は、 球面上の微
小な幅を持つリング上で必ず跳ね返ることになります(B→C)。
(図3、Functionviewで作成)
球状物体が空気分子全体から受ける力の大きさをFとすると、
F=mairNairUV∫(1−COS2θ)2πXdX (θはXの関数)
となります。ここで、積分範囲はXが0から球の半径Rまでです。ただし、X=RSIN
θという関係があるので、 dX=RCOSθdθとなります。 したがって、これらを使
って上の積分式を書き換えると、
F=mairNairUV∫(1−COS 2θ)πR2SIN 2θdθ
ここで、積分範囲はθが0からπ/2までです。 さらに、t=COS 2θとおいて変数
変換すると、
F=mairNairUVπR2∫(1−t )(−1 / 2)dt=mairNairUVπR2
ここで、積分範囲はtが1から−1までです。この結果は、同じ断面積を持つ平面円
盤のちょうど半分の値になっています。 球状物体に関して、 空気抵抗の値が半分
になることを示しています。ちなみに、空気抵抗の係数は、
r=mairNairU πR2
同じ断面積を持つ楕円体の場合の空気抵抗を計算してみてください。もし、可能な
らば、 長径と短径の比をパラメータにして空気抵抗の値をグラフにしてみてくださ
い。 円盤や球よりも、 さらに空気抵抗の係数は小さくなる!? 日本の電車の先頭
車両のノーズ部の形状がどのように変化して来たかにも大きく影響しているはず
です。普通電車、旧型の新幹線、そして、新型の新幹線のノーズ形状を比較してみ
ると面白いでしょう。
宇宙空間の近くを飛ぶハイパーソニック機は別として、 軍用機の高速機は旧ソ連
製のミグ戦闘機以来あまリこれと言ったものは現れていません(むしろ、 ステルス
性能が重要視されている )。 この理由を空気抵抗という観点から考えてみてくださ
い。空気の密度が大きい(英語では、thickという言葉を使う)領域では、高速で移
動することはまったく不可能!?マッハ3〜4を大きく超えるスピードを実現するた
めには、どんな物理的または技術的な課題を越えなければなりませんか!?