回転運動
物体の重心座標が時間的に移動してなくても、 物体がその重心の周りで回転し
ていれば、運動エネルギーを持つことは明らかです(回転を止めるためには、仕
事が必要になる)。 この回転の運動エネルギーを数学的に定量化してみます。 ま
ず、 質量を持つ二つの球が質量がない棒で連結されている例を考えてください (
図1参照)。二つの球は、システムの重心を中心に速度Vで回転しています。
<球の大きさは考慮せず質点として扱っている>
(図1、Functionviewで作成)
二つの球の質量をMとすると、システムの運動エネルギーEKは、
EK=M V2/ 2+M V2/ 2=M V2
となります。回転の角速度をωとすれば、V=Rωとなるので、
EK=( MR2 ) ω2=I ω2 ( I=MR2)
とも表せます。 Rは重心からそれぞれの球の中心までの距離です。上式において
、括弧内の値を慣性モーメントと言います。 この値は、 物体の密度分布や幾何
学的形状で決まります。一様密度分布を持ついくつかの物体について、その慣性
モーメントを計算してみます。
デスク形状の慣性モーメント
デスクの半径はRdで、 面密度をρsとします。 デスクの中心からRの距離にある
幅ΔRのリングの慣性モーメントは(2πRΔR ・ρs)・R2となります。したがって
、デスク全体の慣性モーメントIdは、以下の積分で与えられます。
Id=2πρs∫R3 dR=πρs Rd4/2=Md Rd2/2 (Md=πρs Rd2)
ここで、積分の範囲は0からRdまでです。
球の慣性モーメント
球の半径はRsで、体密度をρvとします。 球の中心から球座標で見て、(R、θ、
φ)の位置にある微小体積の慣性モーメントは(R2SINφΔRΔθΔφ・ρv)・
R2SIN2φとなります。ゆえに、球全体に関する慣性モーメントは、
Is=ρv∫∫∫R4 SIN3φ dR dθdφ
=2 MsRs2/ 5 (Ms=4πρvRs3/ 3)
で与えられ、 積分範囲はRが0からRs、θが0から2πそしてφが0からπまでと
なります。この積分は三重積分ですが、変数を分離して簡単に計算できます。
課題(その1)
楕円体のX軸、Y軸そしてZ軸に関しての慣性モーメントを求めてください。 また、
正多面体の対称な軸に関する慣性モーメントはどうなりますか。
球が斜面を滑らずに転がる場合の運動に関して上の議論を適用してみます。図2
は角度αの斜面上を転がる球(質量:M)の様子を示した図です。
<∠DEF=α>
(図2、Functionviewで作成)
球の中心が点Aの位置にあるときに静止していた球がt=0で放たれて動きだし、t
=Tで球の中心が点Bの位置にあるものとします。 ABの長さはXで、ACの長さは
Hです。t=Tでの球の速度や運動エネルギーを求めてみましょう。
力学的なエネルギーの保存則から、 球が持つ位置エネルギーが運動エネルギ
ーに変換されることが判ります。但し、球は二種類の運動エネルギーを持ちます。
一つは球の平行移動に関する運動エネルギーであり、 もう一つは球の回転に関
する運動エネルギーです。
位置エネルギーをEP、運動エネルギーをEK、運動エネルギー(平行移動)をEKT
そして運動エネルギー(回転)をEKRとすれば、
EP+EK=EP+EKT+EKR=一定
の関係が得られます。以上から、t=Tでの球の速度をVとすれば、
MGH=MV2/2+Isω2/2 (Is=2MR2/5、ω=V/R)
=MV2/2+MV2/5=7MV2/10
となります。ここで、Gは重力加速度です。
上で求めた球の慣性モーメントの値を代入し、H=X SINαであることを考慮して
上式をVについて解くと、
V=(10GX・SINα/ 7)1/2
が得られます。 立方体形状の物体が滑らかな斜面を滑った場合の速度、(2GX・
SINα)1/2の値に比べて若干遅くなっていることが判ります ( 回転運動の方へエ
ネルギーが分散している為)。
課題(その2)
球が滑らずに転がることの物理的な意味を 摩擦力の観点から 議論してください。
また、球が滑るとはどういうことですか。
課題(その3)
上記の球の問題に関して運動方程式を書いてください。 球の斜面方向の加速度
はどうなりますか。
二番目の例として、質量を持つ滑車の問題を考えましょう。滑車は滑らかに回転し
ますが、質量を持たないひもは滑らずに動きます(図3参照)。
<M→滑車の質量、M1(M2)→左側(右側)の重りの質量、M1<M2>
(図3、Functionviewで作成)
二つの重りやひもそして滑車に関する運動方程式は以下のようになります。
左側の重り: M1・( d2X1/ dt2 )=T1−M1G
T1は左側の重りに働くひもの張力で上向き、Gは重力加速度で下向きです。
ひも: 0=T2−T1−Fd
T2は右側の重りに働くひもの張力で下向き、Fdはひもが滑車から受ける摩擦力で
す。この例では、右側の重りが徐々に下降して行き、その動きを抑制する方向に摩
擦力は働きます。ひもの質量は無視しているので、左辺は0になります。
右側の重り: M2・( d2X2/ dt2 )=M2G−T2
滑車: Id・( dω/ dt )=R Fd
Id は滑車の慣性モーメント、ωは滑車の角速度、そしてRは滑車の半径です。大
きさだけを考えると、次の関係式が成り立ちます。
d2X1/ dt 2=d2X2/ dt2=R dω/ dt
したがって、これらの式を d2X1/ dt2 について解くと、
d2X1/ dt2=(M2−M1)G / (M1+M2+M/2)
となります。ここで、Id=MR2/ 2 として計算しています。
課題(その4)
地球の自転を完全に止めるために必要な仕事量を計算してください。アインシュタ
インのE=MC2という有名な式を使って、その仕事量を質量に換算し直してくださ
い。