運動方程式
17世紀に、ニュートンが数学的に体系化した古典力学は現代物理学の基礎にな
っています。中でも、運動方程式は運動量保存則やエネルギー保存則を導くもと
の式になっているだけでなく、 天体や物体の軌道を計算するための微分方程式
にもなっています。ニュートンの運動に関する三法則を簡単に復習すると、
第一の法則(慣性の法則)
力を受けていない物体は静止または等速度直線運動をする
第二の法則(運動方程式)
物体に力が働くと、 力の向きに、 力の大きさに比例した速度の変化(加速度)が生
じる。このときの比例係数は質量の逆数になる。
m dV /dt=F
第三の法則(作用・反作用の法則)
二つの物体が互いに及ぼし合う作用と反作用は、 大きさが等しく、逆向きで、二物
体を結ぶ方向に働く
FAB =−FBA
まず、上記の運動方程式から運動量保存則を導いてみましょう。 運動量ベクトルを
P とします。
m dV /dt=d(mV )/dt=dP /dt=0
→ P =定ベクトル
つまり、 システムに外力が働かなければ、 システム全体の運動量が保存される
ことが判ります。ここで、質量は時間的に変化しないと仮定しています。
課題(その1)
m dV /dt=F とdP /dt=F のそれぞれの物理的な意味を議論してください。勿
論、mが定数のときはまったく同じものになります。 mが時間の関数の場合はどう
ですか。また、この運動方程式が適用できない例を調べてください。
無重力空間で、ロケットのエンジンを噴射してロケットを発射させたときのロケット
の速度の時間的な変化を求めてみます。 ただし、エンジンは単位時間に質量mの
噴射ガスを速度vで放出するものとします(v はロケットに対する相対速度)。 この
場合の運動方程式は、
dP/dt=dMV/dt=(dM/dt)V+M(dV/dt)=mv
となります。 Pはロケットの運動量、Mはロケットの質量、Vはロケットの速度です。
ロケットは一次元的な運動をしているので、 上式でベクトル表示を行っていません
。ここで、M=M0−mtという関係に注意して運動方程式を書き換えると、
−mV+(M0−mt)・(dV/dt)=mv
→ dV/dt=m(V+v)/(M0−mt)
の形になります。この微分方程式を解くためにさらに変形すると、
dV/(V+v)=mdt/(M0−mt)
→ log(V+v)=−log(M0−mt)+定数 (上式の両辺を積分した結果)
→ log{(V+v)(M0−mt)}=定数
→ (V+v)(M0−mt)=定数
t=0 で V=0 であるという初期条件を使って定数の値を決定すると、
V=mvt/(M0−mt)
という解が得られます。 実際に、数値を入れてロケットの速度を計算してみましょう
。M0を10mとします。1秒後、2秒後そして3秒後の速度を計算すると、
1秒後 → v / 9、 2秒後 → v / 4、 3秒後 → 3 v / 7
となります。
課題(その2)
1秒毎に、噴射ガスの質量mをロケットに対して相対速度vでパルス的に噴射する
場合に、ロケットの速度がどうなるかを計算してください。 ただし、運動方程式では
なく、 パルス噴射ごとに運動量保存則を適用して計算してください。 上で計算した
値と比較するとどうなりますか。
課題(その3)
大気圏でロケットを上向きに発射すると、下向きの重力がロケット本体に働きます
。このときの運動方程式を書いてください。 Gは重力加速度とします。単位時間に
噴射するガスの量や速度は上記の例と同じとします。運動方程式を解析的に解け
ない場合は、数値的に解いてください。
運動方程式からエネルギーの保存則を導くことを考えます。 以下の式は、 バネに
関する運動方程式です。
M dV /dt=−KX
Mはバネの先に付いている重りの質量で、Kはバネ定数です。バネは一次元的な
運動をするものとします。上式の両辺とV との内積をとると、
MV ・dV /dt=−KV ・X =−K(dX /dt)・X
→ M d(V ・V /2)/dt=−K d(X ・X /2)/dt
→ M d(V2/2)/dt=−K d(X2/2)/dt
最後の式の右辺を左辺に移動して、微分に関して整理すると、
d(MV2/2+KX2/2)/dt=0
→ MV2/2+KX2/2=定数
上の式で、定数をバネの力学的エネルギーEで置き換えれば、 以下のエネルギー
の保存則の式になります。
MV2/2+KX2/2=E
ここで、バネの弾性エネルギーの項をXで微分しマイナスを付けると、重りに働く力
の項になることに注意してください。すなわち、
−d(KX2/2)/dX=−KX
次に、 摩擦でエネルギーが熱として失われる運動について検討してみます。 滑ら
かな部分と滑らかでない部分を持つ平面上を物体が直線的に運動している例を考
えてください。滑らかな部分での運動方程式(F =0)は、
M dV /dt=0 → V =定ベクトル
上式の両辺とV との内積をとって、
M V ・dV /dt=0 → M d(V ・V /2)/dt=0 → d(MV2/2)dt=0
よって、運動エネルギーは保存されます。
上記の速度で滑らかでない部分に進入すると、運動方程式は、
M dV /dt=−μmN x =−μmMG x
μmは動摩擦係数、Nは垂直抗力、Gは重力加速度、 そして、 x は進行方向の
単位ベクトルです。初期条件、V =V0 を使って上式を解くと、
V =V0 −μmG t x
となります。バネの例と同様に、運動方程式の両辺とV との内積をとって、
M V ・dV /dt=M d(V ・V /2)/dt=−μmMG V ・x
M d(V2/2)/dt=−μmMG dX/dt
右辺を左辺に移動して、微分を整理すると、
d(MV2/2+μmMGX)/dt=0
→ MV2/2+μmMGX=定数 (X:滑らかでない部分での走行距離)
滑らかでない部分に入る前に、 MV02/2 の運動エネルギーを持っていたことを考
慮すると、
MV2/2+μmMGX=MV02/2 (エネルギーの保存則)
が得られます。 ただし、左辺の第二項は摩擦によって失われるエネルギーであり、
バネの運動のような可逆的な運動にはなりません(物体は最終的に静止する)。
課題(その4)
質量mを持つ物体が、滑らかではない半円のレール上をAの位置から滑り降りるも
のとします。 このとき、物体はBの位置で静止しました。 角AOBθ1と動摩擦係数
μm との関係を求めてください。 ただし、 レールの半径はR、重力加速度は G と
します。 物体に働く遠心力を考慮しない場合とする場合の違いはどうなりますか。
< 円周上の微小な長さ→ R・Δθ>
(図1、Functionviewで作成)
最後に、電場や磁場がある場所での荷電粒子の運動について検討します。 電場
や磁場の強さは時間的に変化しないものとします。荷電粒子として電子を考えまし
ょう。 電子の質量をm、その電荷を−e とします。 このとき、 電子に働く力は−eE
とローレンツ力、−eV X B (V とB の外積)の二つです。 したがって、電子に関
する運動方程式は、
m dV /dt=−eE −eV X B (重力の影響は無視)
となります。 電場の向きをX軸の+方向で、 磁場の向きをZ軸の+方向として電子
の軌道を計算してみます。
m dV /dt=−eEx −eV X Bz
上式で、x はX軸の+方向を向く単位ベクトル、 z はZ軸の+方向を向く単位ベクト
ルです。 電子が最初静止した状態で、 座標の原点(0、0、0)にいたとします。この
とき、電子に働く力は電場による力のみなので、電子はX軸の−方向に加速されま
す。一方、ローレンツ力による力は速度と磁場の両方に垂直な方向に働きます。ゆ
えに、電子がZ方向の速度成分を持つことはありません。 したがって、 電子の運動
はX-Y平面内での運動になります。よって、運動方程式は、
(X方向)→ m dVX /dt=−eE−eB VY
(Y方向)→ m dVY /dt=eB VX
または、
(X方向)→ m d2X /dt2 =−eE−eB(dY /dt)
(Y方向)→ m d2Y /dt2 =eB(dX /dt)
と書けます。 第一番目の式を t で微分して両辺をmで割り、 第二番目の式を代入
すると、
d2VX /dt2=−(eB/m)・(dVY /dt)=−(eB/m)2・VX
この式を解いて、VXを求めると、
VX=C SINωt+D COSωt
ここで、CとDは初期条件で決まる定数で、ωは以下の式で与えられます。
ω=eB/m (2πで割ると、電子のサイクロトロン振動数)
t=0 で VX=0 なので、D=0となります。 そして、t=0 で dVX /dt=−eE/m
なので、C=−E/Bとなります。この結果から、
VX=(−E/B)・SINωt
さらに、この解を第一番目の式に代入して、VYを求めると、
VY=−E/B+(E/B)・COSωt
これらを使って、電子の座標値を計算してみましょう。
dX /dt=(−E/B)・SINωt
→ X=(mE/eB2)・COSωt+A1
t=0 で X=0 という初期条件から、A1は−(mE/eB2)となります。ゆえに、
X=(mE/eB2)・( COSωt−1)
Yに関しては、
dY /dt=−E/B+(E/B)・COSωt
→ Y=−(E/B)t+(mE/eB2)・SINωt+A2
t=0 で Y=0 という初期条件から、A2は0となります。よって、
Y=−(E/B)t+(mE/eB2)・SINωt
となります。具体的に、電場や磁場の値を入れて軌道の図を作成してみます。電子
の質量や電荷は以下の値を使います。
m→ 9.1X10−31 (kg)、 e→ 1.6X10−19 (C)
電場および磁場の強さを 100 (V/m)、1.0X10−3 (T)とすると、 座標値の式
の係数は、
K1=E/B=1.0X105 (m/s)、 K2=mE/eB2=5.7X10−4 (m)
ω=eB/m=1.8X108 (1/s)
係数間でK1=ωK2という関係があるので、XおよびYの座標値は常に負の領域
(0も含む)にあることに注意してください。図2はその概形を示したものです。
<電磁場内での電子の軌道>
(図2、Functionviewで作成)
課題(その5)
電磁場内での水素イオン、H+に関する軌道の式を求めてください。 電子の軌道
と比較してください。
課題(その6)
一価のイオンの質量分析器を作りたいと思います。 電場と磁場をどのように印加
すれば良いか考えてください。 また、通常の水素と重水素(核融合反応炉の燃料
)を分離するための装置のアイデアを出してください。 上図において、電荷の値が
同じでも質量が違えば、 異なる軌道を取ることに注意する。 対象とする物質に初
速度を持たせても構いません。
課題(その7)
電子の運動方程式から、エネルギー保存則の式を導いてください。V と運動方程
式の両辺との内積を取ることがヒントです。
m dV /dt=−eEx −eV X Bz
課題(その8)
磁場内を初期速度、V0で運動している荷電粒子があります。この粒子の軌道がど
うなるかを考えてください。 ただし、磁場は一様であるとします。 また、粒子の磁力
線方向の初期速度成分はV//0で、 垂直方向の初期速度成分はV⊥0です。 この
軌道は、核融合装置内に閉じ込められたプラズマ粒子の軌道でもあります。