遠心力


 

太陽を基準とした座標系で考えると、 既に前ページで説明したように地球の公転

軌道は地球の公転速度Vと中心力である太陽・地球間の万有引力FAで決定され

ます(図1参照)。

 

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では、地球を基準とした座標系で考えた場合はどうなるでしょうか。 座標の取り方

に関係なく、万有引力は存在しますのでこれは考慮しなければなりません。一方、

太陽を基準とした座標系では存在した地球の公転速度はなくなります。そうすると

、万有引力だけが残り力のバランスが崩れることになります。ここで、便宜的に導

入されたのが、中心力とは大きさが同じで向きが正反対な遠心力FCなのです。 当

然、この力は実在する力ではありませんから見かけの力と呼ばれています。

 

加速度運動をする電車の中でも同様の見かけの力が導入されます。 電車内にぶ

ら下がっている吊皮は電車の進行方向とは逆の方向に傾きます。 このとき、重力

mG と共に考慮されるのが見かけの力である慣性力 mATです。つまり、ある座標

系に対して加速度運動をしている座標系では、  常に見かけの力が働くということ

になります(図2参照)。ATは電車の加速度、Gは重力加速度そしてTは吊皮に働く

張力です。

 

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上記の点をもう少し数学的な表現を使って確認してみましょう。 まずは、 二つの座

標系 XYZXYZを考えてください。 前者のX軸の+方向に、後者の

が加速度Aで移動しているものとします(図3参照)。t=0で二つの座標系の原点

一致していたと仮定すると、ある物体Sの座標値に関して次の関係が得られます

 

X2S=X1S−A t/2

Y2S=Y1S

Z2S=Z1S

 

これらを に関して二回微分すると、

 

X2S/dt=dX1S/dt−A

Y2S/dt=dY1S/dt

Z2S/dt=dZ1S/dt

 

となります。  ここで、 一番上の式においてmdX2S/dtF2SそしてmdXS/d

F1Sとおくと、

 

F2S=F1S−mA (X方向の力の関係式)

 

となります。 mは物体Sの質量です。 上式において、 右辺の二番目の項が所謂見

かけの力である慣性力になる訳です。 電車の例では、 F1S=TXであるため電車に

乗っている人にとっては F2S=TX−mAT=0 となって、 吊皮は傾いて静止している

ように見えます。一方、地上にいる人にとっては、結局F1S=mATとなるので電車と

同じ加速度で運動しているように見えます。

 

慣性力の問題(その1)

慣性力の問題(その2)

 

二番目として、基準となる座標系に対して回転運動をしている座標系について考え

てみます(図4参照)。

 

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上図から判るように、  座標系XYZは座標系XYZに対して角速度 ωで時計

の回転方向とは反対向きに回転しています( ただし、原点は一致している )。 した

がって、物体Sの座標値に関して以下の関係が得られます( 式の導出は課題として

おきます)。 ここで、t=0で両方の座標系の座標軸は完全に重なっていたものと仮

定しています。

 

X2S=X1S COSωt+Y1S SINωt

Y2S=−X1S SINωt+Y1S COSωt

Z2S=Z1S

 

座標値に関する式の導出

 

これらの式を に関して2回微分すれば、回転している座標系での加速度と回転し

ていない座標系での加速度との間の関係が得られます。 まずは、t に関して1回微

分してみます。

 

X方向:    dX2S/dt=(dX1S/dt)・COSωt−X1S・ωSINωt

+(dY1S/dt)・SINωt+Y1S・ωCOSωt

 

Y方向:  dY2S/dt=−(dX1S/dt)・SINωt−X1S・ωCOSωt

+(dY1S/dt)・COSωt−Y1S・ωSINωt

 

Z方向:  dZ2S/dt=dZ1S/dt

 

さらに、t に関して微分して整理すると、

 

X方向:  X2S/dt={(dX1S/dt)・COSωt+(dY1S/dt)・SINωt}

+{−(dX1S/dt)・2ωSINωt+(dY1S/dt)・2ωCOSωt}

+{−X1S・ωCOSωt−Y1S・ωSINωt}

 

Y方向: Y2S/dt={−(dX1S/dt)・SINωt+(dY1S/dt)・COSωt}

+{−(dX1S/dt)・2ωCOSωt−(dY1S/dt)・2ωSINωt}

+{X1S・ωSINωt−Y1S・ωCOSωt}

 

Z方向:  Z2S/dt=dZ1S/dt

 

となります。上式の両辺に物体の質量をかけると力に関する関係が得られます。

X・Y方向ともに第一番目の波括弧内の項が、静止している座標系で存在する実際

の力です。残りの項は、座標系が回転することによって発生する見かけの力です(

上式でω=0とおけば、第二番目と第三番目の波括弧内の値はとなる)。

 

二つの簡単な例を取り上げて見かけの力を見積もってみましょう。 まず最初は、 静

止している座標系の X 軸上に物体が原点から一定の距離をおいて静止している場

合です。 この条件では、物体は静止している座標系から見たとき速度も加速度も持

たないため、回転する座標系では三番目の波括弧内の項だけが残ります。

 

(F2SX3=−mRωCOSωt

(F2SY3=mRωSINωt

 

ここで、原点から物体までの距離をRとおきました。 ゆえに、物体に働く見かけの力

mRωということになります。 回転する座標系から物体を見ると、 物体は半径R

円軌道を一定の速度Vで円運動しているように見えるので、 その運動を支えるた

めに中心力mV/R=mRωが要るのは明らかです。 見かけの力は中心力として

機能している訳です。

 

物体が回転している座標系のX軸上に固定されている場合を考えてみます。   この

例は、 回転木馬(またはメリーゴーランド)そしてひもの先についている重りの回転

運動に相当します。また、太陽の周りを回っている地球の公転運動を想像しても構

いません。 静止している座標系で見て、 t=0で物体の原点からの距離をRとし、そ

の速度をV=ωRとすると(ただし、RベクトルとVベクトルは互いに直交している)、

 

X1S=R、Y1S=0

dX1S/dt=0、dY1S/dt=V

X1S/dt=0、dY1S/dt=0

 

以上から、 回転する座標系から見た物体に働く力は、 前の例で計算した原点に向

かう中心力である見かけの力mRωと、二番目の波括弧から来るもう一つの見か

けの力を足したものになります。ここで、後者の力は以下の式で与えられます。

 

(F2SX2=2mωV=2mRω (中心から外に向かう力)

(F2SY2=0

 

よって、最終的に働く力は

 

(F2SX=mωV=mRω

(F2SY=0

 

となります。これが数学的に導出される遠心力という見かけの力です。

 

下線部についての補足説明

 

物理で使っている微分という演算子は、  微小な時間で成り立つという意味で使っ

ています。 したがって、回転する座標系のX軸上に固定されているという表現を、速

度 Vで円周上を回転しているというイメージで解釈すると間違いのもとになります。

この場合は、 静止している座標系の原点から見て、 ある一定の距離にある物体が

回転する座標系と同じ速度Vである瞬間動いているというイメージで取ってくださ

い。このとき、位置ベクトルと速度ベクトルはお互いに垂直です。 遠心力もこの瞬間

での力です。

 

今までは、一次元的 もしくは二次元的 な見かけの力を考えてきました。地球は

ですし、現実世界の問題を考えるためには三次元的な見かけの力を考えなけれ

ばなりません。 これらの力は 地球環境を決定づけている気象現象などに大きな影

響を与えているはずです。

 

地球表面で働く見かけの力

宇宙ステーションの為の人工重力

自動車の横転防止

 

 


 

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