微分方程式
微分方程式の数学的な意味はともかくとして、物理的には初期条件を気にせずに
物理法則をよりコンパクトに表現できるメリットがあります。たとえば、重力下の落
下運動は運動方程式を使って以下のように表現できます。
M A =−M G または M dV /dt=−M G または M d2R /dt2=−M G
重力の方向を−Z方向として、各成分を表示すると、
M AX=0、M AY=0、M AZ=−M G
または M dVX / dt=0、M dVY / dt=0、M dVZ / dt=−M G
または M d2X / dt2=0、M d2Y / dt2=0、M d2Z / dt2=−M G
上の式で G は重力加速度を表しています。 三番目の式の両辺をMで割ると tに関
する二階の微分方程式となります。右辺が定数のため、この微分方程式は簡単に
解けます。つまり両辺を二回続けて積分すればよい訳です。以下に、 その解を示
します。
X=A t+B、 Y=C t+D、 Z=−G t2/ 2+E t+F
AからFまでの定数は運動の初期条件によって決まります。物体の初期位置を(X
0、Y0、Z0)、初期速度を(VX0、VY0、VZ0)とすれば、 上記の式は以下のように
になります。
X=VX0 t+X0、 Y=VY0 t+Y0、 Z=−G t2/ 2+VZ0 t+Z0
次に、 バネの運動を記述する運動方程式について考えてみます。 バネの端に付
いた重りにはバネの伸びに比例した復元力が働くため、以下のような運動方程式
になります(図1参照)。 ここでは、 バネの運動が一次元的に行われると仮定して
いるので、ベクトル表示を行っていません。
M d2X / dt2=−K X
上の図において、L はバネの自然長であり K はバネ定数です。両辺をMで割ると
、この式も t に関する二階の微分方程式になっています。 落下運動の式との違い
は、右辺が定数ではなくXの一次式になっていることです。SIN t とCOS t を連続
して二回微分してみてください。元の関数にマイナスを付けたものになっています。
これらの関数がバネに関する微分方程式を満足していることが判ります。 よって、
微分方程式の解は以下のようになります。
X=A SINωt+B COSωt
ここで、ωは次の式で与えられます。
ω=( K / M )1/2
上の式でAとBは初期条件から決定されます。では、AとBを求めてみましょう。t=
0で、X=X0そして V=0とします。 これはバネをX0だけ引っ張った後に重りを離
した時の重りの運動を表します。Xを tで微分するとVになることに注意してください
。A=0でB=X0になることが判ります。 COS関数の場合、2πが周期になります
から運動の周期は2π/ωとなります。
三番目は振り子の運動です(図2参照)。まず、運動方程式を求めてみましょう。振
り子の長さLは一定なので円周方向の運動だけになります。この方向の長さの微
小変化はL にΔθをかけたものなので、 速度と加速度は以下のようになります。
また、振り子の先に付いている重りに働く重力の円周方向の成分がMG SINθに
なることに注意してください。この場合も振り子には復元力が働きます。
速度: L dθ/ dt 加速度: L d2θ/ dt2
よって、振り子の運動方程式は、
M L d2θ/ dt2=−M G SINθ
となります。ある瞬間での円周上の加速度と力の関係から上式は得られます。
上の運動方程式の両辺を MLで割ると、以下のような t に関する二階の微分方程
式が得られます。 このままでは解析的に解けませんので、θが十分に小さいとし
てSINθをθで近似することを考えます。 これによってバネのところで解いた微分
方程式のような形になります。
d2θ/ dt2=−(G SINθ)/ L=−Gθ/ L(近似)
この微分方程式の解は、
θ=A SINωt+B COSωt(近似)
ここで、ωは次の式で与えられます。a
ω=(G / L)1/2
AとBの定数は運動の初期条件によって決定されます。振り子の周期は2πをωで
割った値になります。 注目して欲しいのは、ωに質量Mの値が含まれていないこ
とです。 これは重りの質量や振れ角(θの最大値)を変えても、振り子の周期が変
わらないことを示しています ( 振れ角に依存しないことを振り子の等時性といいま
す)。
連立微分方程式
お互いに影響を及ぼし合いながら運動をする複数の物体については、 それぞ
れの物体について運動方程式を立て、 それらを連立させて解を求めることになり
ます。ここではバネの例で説明しましょう(図3参照)。
重り1の運動方程式: M d2X1 / dt2=−K X1+K (X2−X1)
重り2の運動方程式: M d2X2 / dt2=−K X2−K (X2−X1)
三つのバネはまったく同じタイプのバネで、自然長がL、バネ定数がKとなっていま
す。 そして、二つの物体の質量はともにMとなっています。 両辺をMで割ると、次の
ような二つの微分方程式が得られます。
d2X1 / dt2=−K X1/ M+K (X2−X1)/ M
d2X2 / dt2=−K X2/ M−K (X2−X1)/ M
このままでは、X1とX2の変数がミックスしているので解けません。よって、次のよ
うな工夫をします。(1)第二式から第一式を引く。(2)第二式に第一式を足す。また
、X-=X2−X1およびX+=X2+X1の新たな変数を導入します。すると、以下の
ような変数分離された微分方程式になります。
d2X2/ dt2−d2X1/ dt2=d2(X2−X1)/ dt2=−3K(X2−X1)/ M
d2X2/ dt2+d2X1/ dt2=d2(X2+X1)/ dt2=−K(X2+X1)/ M
X−とX+を使って、上の微分方程式を書き換えると、
d2X−/ dt2=−3KX−/ M
d2X+/ dt2=−KX+/ M
これで両式とも普通に解けるような形になりました。 この両式の解は以下のように
なります。
X−=A SINω−t+B COSω−t
X+=C SINω+t+D COSω+t
ここで、ω−とω+は次の式で与えられます。
ω−=(3K/M)1/2 ω+=(K/M)1/2
AからDまでの定数は、 二つの物体の初期位置や初期速度の大きさから決まって
きます。 これらの式を使えば、X1とX2に関する表現も得られます。 そして、振動に
は二つのモード、ω−とω+があることも判ります。
課題(その1)
図3の例で、バネ定数や重りの質量が以下の場合について解いてください。
(1)バネ定数(左、右)=K、バネ定数(中)=2K、重りの質量は全てM
(2)重りの質量(左)=M、重りの質量(右)=2M、バネ定数は全てK
空間の等方性と運動方程式
XYZ座標とか 極座標とかで 運動方程式をどのように書けばいいかで混乱してい
る方もいると思いますが、初等物理学では空間の等方性を仮定しています。 した
がって、 どういう方向を取っても微小な変化を扱う運動方程式は必ず成り立つと
考えて問題はありません。
これに疑問を持つ方は、自分でいろいろと思考実験なり実際の実験をやってみてく
ださい。物理学における新たな発見に繋がらないとは限りません!?